01 どうして,私たちは,先駆けてマーケティングやマネジメントの視点を持ち得たのか
私たちの事務所が,マーケティング戦略を打ち出したのは,2008年1月であり,マネージャーを置いて,組織を統轄するようになったのは,2008年3月でした。
その後,「弁護士のためのマーケティングマニュアル」(出口恭平著,第一法規)が出版され,弁護士業務にもマーケティングの手法が使われることが意識され始めたのが2008年3月であり,「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(岩崎夏海著,ダイヤモンド社)が出版され,マネジメントの重要性が再認識されたのが,2009年12月でした。
前者を読んだときには,私たちの事務所でやろうとしていることと形の上では重なる部分が多いけれど,ビジョンが見えないし,体系的ではないなという感想を持ちました。また,ドラッガーは,名前を聞いたことがあるだけで,どんなことを言っているのかは知りませんでしたが,後者で書かれていることがそれだとすると,私たちが事務所の運営の中で実践的に到達したマーケティングやマネジメントの考え方と一致することを再確認しました。
では,どうして,私たちは,法律事務所としては,先駆けてマーケティングやマネジメントの視点を持ち得たのか。
もちろん,「本」を読んだり,「人の話」を聞いて気付いたわけではありません。
事務所の規模が大きくなるときに,何のために事務所の規模を大きくしようとしているのか,自問する過程で,マーケティングやマネジメントの視点にたどり着いたのです。
私たちの事務所は,何を・どこを目指そうとしているのか-事務所のビジョン問題です。
それまで,私たちの事務所は,弁護士2人,事務局5~6人の規模で運営していましたが,弁護士大増員時代を迎え,2007年12月には3人目の弁護士が入所することが決まっていました(実際には,このとき,弁護士が4人になっています。)。
そうすると,それまでの事務所では手狭になるため,事務所を移転せざるを得ないこととなりました。移転するとして,広さはどれくらい必要か,相談室はいくつ必要か,また事務所の規模を大きくして,事務所財政をどのようにして支えるのか。こういった点を考えるにあたって,前提として,どのような事務所にしようとしているのか,事務所のビジョンを確立することが先なのではないかと考えるようになったのです。
2007年の前半は,この事務所ビジョンを確立させ,それにそった事務所を作るための準備の期間となりました。
では,どのような事務所ビジョンを考えたのか。
別に特別なことを考えたわけではありません。弁護士であれば当然なすべきことを徹底して意識し,具体化しようと考えただけのことでした。
弁護士は,法律上,「基本的人権の擁護と社会正義の実現」を求められている特別な仕事です。しかも,その仕事は弁護士だけが独占しているのです。
そうであれば,私たちは,弁護士の法的サービスが届いていない人に私たちの法的サービスを届ける努力をすべきではないか。そのために,当事務所は,事務所の規模を拡大し,十分な法的サービスを提供できる体制を作らなければならないと考えたのです。
私たちの事務所は,多重債務を含む消費者問題や医療過誤(患者側),行政訴訟(住民側),高齢者問題等に積極的に取り組んでいましたが,この分野では,まだまだ弁護士の法的サービスを必要とする人に法的サービスを提供できていないという実感がありました。特に,長崎県内であれば,当事務所のある県南地域に比べ,県北地域では,これらニーズへの対応は不足しているように思っていました。そこで,事務所の規模を拡大し,これらニーズに対応できるサービスを作り(マーケティングの視点),サービス提供の基盤となる組織を作ろうと考えたのです(マネジメントの視点)。
2007年7月,現在の事務所に移転し,弁護士5人くらいまで,事務局12人くらいまでは入ることのできるスペースを確保しました。その後,2007年12月には弁護士4人の体制となっています。
さらに,県北地域にも事務所を置くために,2008年8月,事務所を法人化し(弁護士法人佳朋設立),2009年1月,佐世保事務所を開設しました。
結論です。
私たちがまず確立しなければならないのは,形だけのマーケティング論やマネジメント論ではなく,確固とした事務所ビジョン(理念)です。ここがぶれることがなければ,後は考えて実行することだけです。そうすれば,自ずとその事務所なりのマーケティングやマネジメントができあがってくるはずです。
長いプロローグになってしまいましたが,このような視点から,法律事務所のマーケティングを考えていこうというのが,このブログの目的です。主な対象は,もちろん法律事務所を運営している弁護士ですが,中小企業の経営者の皆さんにも参考になるのではないかと思っています(中小企業の経営者の皆さんに,原総合法律事務所のマーケティングをテーマにお話しする機会もあるのですが,結構,好評です。)。
次回以降,具体的に原総合法律事務所ではどのようなマーケティングをしているのか,お話ししたいと思います。
ちなみに,マネジメントについてですが,私たちの事務所では,弁護士でないマネージャーが組織を統轄しています。どうして,そのような体制をとっているのかについては,改めてお話しする機会があると思いますが,実際のマネジメントについては,マネージャーのブログがあるので,そちらをぜひ読んでみてください。