2011/09/13

02 明確な事務所理念・ビジョン

02 明確な事務所理念・ビジョンを断固として貫き通すこと

おそらくは,たいていの事務所で,自分たちの事務所の理念ないしビジョンについて,ぼんやりとしたものはもっていることと思います。
しかし,それが事務所のマーケティングの基本となるだけの明確な理念ないしビジョンになっているかというとどうでしょう。
そこから,事務所の全てのマーケティングの方針が導き出されていますか。
それが,事務所が提供する全てのサービスや企画,更には組織を検証する物差しになっていますか。

それがなければ,場当たりのマーケティングを繰り返すだけで,効果も思うようには上げられないでしょうし,何より,事務所の運営に自信が持てないはずです。マーケティングやマネジメントの基礎には確固とした理念ないしビジョンが必要だというのは,あらゆる仕事において共通の原則です。

更に加えて,弁護士・法律事務所についていうならば,その理念ないしビジョンは,「基本的人権の擁護と社会正義の実現」という弁護士の使命を離れてはあり得ないと考えています。この軸がぶれたマーケティングでは,弁護士としてのやりがい(誇り)も見出せないし,社会的な期待にも答えられないし,ビジネスモデルとしても成功しないと考えています。
「基本的人権の擁護と社会正義の実現」という軸を事務所理念・ビジョンにおいて,断固として貫き通すこと。
これが,今回の第1の結論です。
法律事務所のマーケティングが語られるとき,私は違和感を覚えることが多いのですが,それは,この軸が曖昧な気がするからです。

では,この軸をぶらさず,私たちの事務所では,どのようにして具体的な事務所理念・ビジョンを確立してきたのか。

前回のブログでもふれたところですが,もともと,私たちの事務所は,弁護士2人,事務局5~6人の規模で運営していました。多重債務のピークのころでもありましたし,事件は多く,手一杯という感じが続いていました。ちょうどそのころ,弁護士大増員時代を迎え,弁護士100人足らずの長崎県弁護士会に,急に毎年10人といった多くの新入会員を迎えるようになりました。弁護士を採用すれば,事務所を大きくすることもできるようになってきたのです。
そして,実際,2007年12月には3人目の弁護士が入所することが決まっていました(実際には,このとき,弁護士が4人になっています。)。
そうすると,それまでの事務所では手狭になるため,事務所を移転せざるを得ないこととなりました。移転するとして,広さはどれくらい必要か,相談室はいくつ必要か,また事務所の規模を大きくして,事務所財政をどのようにして支えるのか。こういった点を考えるにあたって,前提として,どのような事務所にしようとしているのか,事務所のビジョンを確立することが先なのではないかと考えるようになったのです。

2007年ころ,まず,事務所の主なメンバーで,事務所のビジョンを話すようになりました。
しかし,当時の資料を見ると,いまだ事務所の軸を自覚できてはいませんでした(軸がなかったわけではなく,ただ,「言葉」になっていなかったという意味です。「基本的人権の擁護と社会正義の実現」という軸は,弁護士になって以来,常に業務の基本でした。)。それでも,今につながる「サービス業の視点」だとか,「スタッフ全員の上質のサービス」という言葉は使われていましたし,既に事務所の「ブランド化」も話題に上っていました(これらキーワードについては,そのうちにお話しします。)。
それが,現在の事務所理念につながる形で明確に言語化されたのは,2008年2月でした。このとき,「原総合法律事務所の将来像(ビジョン)」という文書をまとめましたが,そこには,次のような指摘がありました。
「法律事務所が単なる利潤追求の『商売』でない特殊性-法律事務の独占による法的ニーズへの対応」という視点から,「当事務所の特徴である多重債務を含む消費者問題,医療過誤,行政訴訟,高齢者問題等に,弁護士による十分な法的サービスが提供されているか」を問題とし,その解決に取り組むことを事務所のビジョンに掲げたのです。
今は,もっと端的に,事務所の理念を次のようにまとめています。
「法的サービスを独占し,そのサービスの提供にあたって,『基本的人権の擁護と社会正義の実現』を求められる弁護士として,法的サービスにアクセスできていない市民,中小企業に対し,上質な法的サービスを提供できる事務所であること」
この理念をワンフレーズで表すために,2009年6月からは,次のキャッチコピーを使うようになりました。
「いつでも,どこでも,だれにでも 上質な法的サービスを。」
そして,事務所のマーケティングにあたっては,常に,この「いつでも,どこでも,だれにでも 上質な法的サービスを。」という理念に照らして,今,何をなすべきかを議論し,実践するようにしています。

ここで,今回の第2の結論です。
理念・ビジョンは,簡潔に,明確に文章化すること。
頭の中にあるだけで,文字にならなければ,整理もできていませんし,人にも伝わりません。かつ,短く分かりやすい言葉で言い表せていなければ,やはり整理が不十分ですし,人にも伝わりにくいのです。

でも,この「いつでも,どこでも,だれにでも」というフレーズ,聞いたことがありませんか。
そうです,日弁連が,「市民の司法」の理念を掲げ,司法(弁護士)過疎の解消に取り組んだときのフレーズです。
結局,私たちは,事務所の将来像(ビジョン)を考えていく中で,日弁連のビジョンに戻ってしまったのです。
ただ,この理念・ビジョンをどこまで純粋に貫徹できるか。それをやり抜くためには,これまでの弁護士・法律事務所がやっていなかった方針を提起し,実践していかなければならなかったのです。

さあ,そろそろ,具体的なマーケティングの話しに入っていきましょう。