2011/10/30

17 弁護士費用から考える


17 もっと身近な弁護士であるために4-弁護士費用から考える

前回,法律事務所のマーケティングに関わって,「法律相談」を考えるにあたって,最後に無料相談にふれました。
今回は,無料相談以外の弁護士費用(弁護士報酬)全体について,弁護士へのアクセス(障害)の視点からまとめて考えてみます。

ここでも,やはり,これまで弁護士を利用したことのない市民・中小企業が,弁護士費用をどのように考えているかが検討の視点になるべきです。

一番,よく聞くのが,「弁護士に頼んだら,いくらかかるのか見当がつかず,怖くて頼めない。」という声です。
もっとも,2004年4月1日の弁護士法改正以前は,各弁護士会に報酬基準があったわけですし,その後は,各事務所で報酬基準を作成しています。また,日弁連でも「目安」を作成しています。そして,最近では,各事務所がHPなどで報酬基準を公表しています。
そこで,私も,弁護士費用が分からないと言われるたびに,「事務所ごとに報酬基準を決めて,HPなどで公表しているんですけどねえ。」と弁解しつつ,ちょっと調べれば分かることなのにと思っていたのが正直なところでした。
しかし,誰からも繰り返し同じことを言われるということは,まだ弁護士側の取組みが不十分なのだろうと考え直しました。

そこで,HP上での説明は,従来の報酬基準を詳しく説明するものに加え,2011年7月,分かりやすく説明するページを追加しました。そこでは,具体的なケース毎の弁護士費用の目安も,典型的なものに限ってですが,載せています。今後は,更に具体的なケースの数を増やすことや,主な事件類型の説明のページ,よくある質問などのページから,この具体的な弁護士費用の目安のページに飛ぶリンクをはることなどを進めなければいけないと思っています。

そして,HPにこの分かりやすい説明のページをアップするのと同時に,「弁護士費用ガイド」というリーフレットも作り,相談室内に置くのはもちろん,各種のセミナー等で配布するようにしました(というか,このリーフレットをHP上にアップしたのが,上記の分かりやすく説明したページです。)。
この「弁護士費用ガイド」というリーフレットは好評で,各種リーフレットのうち,一番減りが早いと思うのが,実はこの「弁護士費用ガイド」だったりします。

また,2007年7月,現在の事務所に移転したときには,各相談室の相談者の正面の壁に相談料を掲示するようにしました。こんなことでも,相談者には意外なようで,「相談料がはっきり書いてあるんですね。」という声も耳にします。
ちなみに,それまでは,相談が終わり相談料の話しをすると,「相談にお金がかかるとは思わなかった。」という人がときどきいましたが,予約の電話の際,相談料がかかることを告げ,加えてこの掲示をするようになって以降,そのような人はいなくなりました。

次に,「相談したら,依頼しなければいけないのでは。」という誤解の声も聞くことがあります。相談料だけでは終わらないと思えば,それは確かに相談に行くのもハードルが高いでしょう。
そこで,そんな誤解にも対応するよう,弁護士費用ガイドには,次の流れを冒頭に書き込んでいます。
① まず,相談をする。
② 弁護士費用の見積書を受け取る。
③ 見積書を持ち帰って,依頼をするかどうか検討する。
日弁連の「弁護士の報酬に関する規程」では,見積書は,「申し出があったとき」に作成すればいいことになっていますが(4条),原総合法律事務所では,必ず見積書を作成し,弁護士費用を確認してもらった後に受任を受けることにしているのです。
この見積書も依頼者にとっては意外なようです。

そして,もちろん,「弁護士費用は高くて払えない。」という声もあります。
そのためにあるのが,まず,法律扶助です。原総合法律事務所では,法律扶助にも積極的に対応しているので,かなりの数を受けています。
原総合法律事務所のHPでも,法律扶助については詳しく説明していて,このページは,実は原総合法律事務所のHPの中でも良く読まれているページの一つです。それだけ法律扶助のニーズは高いということですが,よくあるのが,法テラスの事務所に行かなければ法律扶助を利用できないという誤解です。そこで,これらのよくある誤解についても,原総合法律事務所のHPでは冒頭のQ&Aを追加しています。
ただ,現行の扶助は,最近,例外も制度化されましたが,原則は償還なので,どうしても着手金や報酬金の基準が低額に過ぎます。着手金や報酬金の適正化は,重要な課題です。

また,原総合法律事務所では,独自に着手金等の分割もケースに応じて受けています(例えば,破産等については,こちら)。
ただ,分割計画は,きちんと守ってもらわないと信頼関係が壊れますから,支払が遅れたときの督促など,担当者を決め,マニュアル化しておくことが必要です。報酬金の長期の分割については,銀行の自動引落も利用したことがあります。

最近,急に増えているのが交通事故被害者の弁護士保険(権利保護保険)の利用で(毎月のように,この保険を利用した依頼があります。),これは,確実に弁護士へのアクセスを容易にしています。そこで,原総合法律事務所のHPでも,その説明をするようにしました
ところが,この保険は,契約者の家族も対象となったり,乗車中の事故でなくても対象となったりするにもかかわらず,使われていないことが少なくないようにいわれています。そこで,原総合法律事務所では,交通事故の被害者の相談では,家族の自動車保険も含めて確認することにしています。

2011/10/23

16 様々な相談の形


16 もっと身近な弁護士であるために3-様々な相談の形

法律相談が法的なトラブルを抱えた市民・中小企業と弁護士との最初の具体的な接点です。
したがって,「法的サービスにアクセスできていない市民,中小企業に対し,…法的サービスを提供できる事務所であること」を理念とし(02),「法的ニーズのある人が,『いつでも,どこでも,だれでも』相談を受け,依頼できるようにする」ことをマーケティング戦略に掲げている原総合法律事務所としては(03),徹底的に「ユーザー目線」に立った様々な相談の形を打ち出さなければなりません。

まず,原総合法律事務所において,マーケティングの手法として最も有効であったし,マネジメントの面で弁護士・事務局の意識を変えるという意味でも転機になったのが「即日相談」であったことは,このブログの冒頭に強調しました(0405)。しつこいようですが,即日相談に対応できる体制を作り,相談の予約を受ける際,「今日でも相談をお受けできますが,ご希望の日時はありますか。」と答えるようでなければ,弁護士のハードルは下がりません。
原総合法律事務所では,アンケートやヒアリングなど様々な形で市民の声を聞くことを心がけていますが(その具体例もいつかお話しします。マネージャーのブログ「工夫したヒアリングのススメ」参照),つい先日も,古くからの依頼者の方に,弁護士の「敷居が高い」とか「ハードルが高い」と思われていないかヒアリングしたところ,最初に言われたのが,「相談予約が何日も後になってしまうこと」でした。
やはり,ここです。原総合法律事務所などの限られた事務所が即日相談に対応するというレベルではなく,法律事務所というのは,その日に相談に応じてもらえるものだというイメージが広がるように,「業界」を上げて取り組む必要があると再認識させられました。

これに対し,夜間相談土曜相談に応じている事務所は増えてきていると思いますが,ここには市民のニーズはそれほどないようです。原総合法律事務所でも,月2回の土曜相談を行っていますが,相談が1件も入らないときがかなりあります(昨日も土曜相談でしたが,0件でした。)。
土曜は休みという認識が一般ですし,夜間相談についていえば,相談したいことがあれば,仕事を休んででも相談に行こうと思うのであって,仕事を終えて心身ともに疲れた状態で,最初の相談を受けに行こうとは思わないのでしょう。
なお,夜間相談や土曜相談を行う場合は,全く見ず知らずの方の新件相談を受けるのですから,安全上の配慮も必要です。事務所に弁護士が1人しかいない状態で,新件相談を受けてはなりません。原総合法律事務所では,夜間相談や土曜相談を行う場合は,必ず事務局にも残業,土曜出勤してもらいます(原総合法律事務所は,危機管理についても厳重です。)。

電話相談については,否定的ないし消極的な事務所が多いと思いますし,原総合法律事務所でも,面談での相談を原則としています。電話では,どうしても細かなニュアンスが伝わらず,面談でのコミュニケーションが望ましいからです。
しかし,高齢や障がいのために来所されるのが負担であったり,入院・入所されていて来所が困難な方,あるいは県外や海外など遠方に住んでおられて,来所が不可能な方については,例外的に電話での相談にも応じることがあります。
ただ,電話相談は例外的な場合ですから,どのような場合に電話相談に応じるか,応じる場合の方法,相談料をどうするかなど,事前にマニュアル化しておくべきでしょう。ちなみに,原総合法律事務所の場合,電話相談に応じることになった場合は,事務所として無料相談の対象にしている類型でなければ,事前に相談料を振り込んでもらい,日時の調整をした上で,相談者から電話をかけてもらっています(もちろん,必要な資料は,事前にファックスか郵送してもらいます。)。
なお,スカイプを使ったテレビ電話相談にも応じる体制はありますが,相談者側からの希望がほとんどありません。
ちなみに,更に進んで受任に至る場合は,原則として,面談をお願いするのは当然です。

また,病院や施設におられて,来所ができないのであれば,出張相談に応じる場合もあります。もっとも,少なくとも交通費は負担してもらうことにもなるので,電話相談でもすみそうな内容なら電話相談に誘導しているのが実情です。

さて,このような時間や場所の問題と並んで,相談料の問題も,市民・中小企業の側からすれば,やはり弁護士アクセスの障害となっている面は否定できません。
もっとも,本来,法律相談という弁護士の法的サービスには,適正な対価が支払われるべきです。
悩ましい問題なのですが,原総合法律事務所では,他事務所でも相談料を無料化している類型については,対抗上,相談料を無料にしています。多重債務,交通事故の被害者(専門相談窓口で3回まで無料化),遺言・相続が対象でしたが,今は,試験的に,期間限定で不動産関係も無料にしています。既に,あらゆる相談(少なくとも初回相談)を無料化している事務所も表われていますが,扶助要件を満たす場合に扶助相談を利用するのはともかく,資力があるのであれば,相談料を支払うのが当然という原則は曲げたくないのです。
また,原総合法律事務所では,ほかにも,様々なルートで無料相談券を配ったり,Law Support 佳朋の個人の利用者には年1回の無料相談のサービスを付帯したりしていますが,それとの差別化を維持する必要もあります。全ての相談を無料化すると,これらサービスの価値(お得感)がなくなってしまいますが,それは避けなければなりません。

2011/10/21

弁護士のセカンドオピニオン

<コラム編3>弁護士のセカンドオピニオン

弁護士と同じく「プロフェッション」とされる医師の提供する医療が「サービス」であることが公に認知されたのは,1995年の厚生白書だそうです。
以前は,怖そうな医師に診てもらい,十分な説明もなければ,質問もできず,医師の指示する薬を飲んでいるだけというイメージがありました。
しかし,今では,受付はもちろん,医師や看護師もにこやかで,医師は優しく説明してくれ,質問だってできるというイメージが広がってきました。もちろん,専門家として提供する医療の水準が前提ではありますが,同じ医療の水準であれば,最近の病院のイメージが望ましいのはいうまでもありません。

原総合法律事務所では,「サービス業の視点」をキーワードの一つにしていますが(04),医師・病院と同様の意識改革が,弁護士・法律事務所においても必要だと考えています。

例えば,悩み事を抱えやって来る相談者に対して,弁護士,事務局が怖そうだったり,ぶっきらぼうだったりしては,それだけで市民は弁護士にアクセスしなくなるでしょう。それでは,原総合法律事務所のマーケティング戦略である法的サービスにアクセスできていない市民,中小企業に対する法的サービスの提供は実現できません(03)。

また,医療におけるインフォームドコンセントは,法的サービスの提供にあたっても,同様に重要です。法的に考えられる選択枝をそのメリット・デメリットを分かりやすく明らかにし,専門家として適切に助言した上で,十分納得してその法的手続を選択してもらわなければなりません。
それがなければ,たとえ結果として勝利したとしても,依頼者は満足を得られず,もう弁護士のところ(少なくとも,その法律事務所)には来ないでしょう。

さらに,医療の世界では常識になりつつあるのに,弁護士の世界で日陰者なのが,セカンドオピニオンです。
しかし,実は,原総合法律事務所では,以前から,セカンドオピニオンとしての相談にも応じてきました。他の事務所に依頼しているという方から相談の問い合せがあっても,相談だけなら構いませんというスタンスでした。
また,原総合法律事務所の相談者や依頼者が,他の事務所にセカンドオピニオンを聞きに行くことも,同じように構わないというスタンスでした。
法律事務所によって,その提供する法的サービスに違いがあるのはやむを得ないことで,相談者・依頼者には,自分の責任でそれを選ぶ自由があると思うのです。また,原総合法律事務所は,その選択に耐えうる事務所になりたいと思っているのです。

そして,そういう立場をHP上でも明らかにしました(こちら→「セカンドオピニオン」について。マネージャーのブログでも,番外編セカンドオピニオンのススメ)。
同じような立場の法律事務所は,実はそれなりにあると思うのですが,そのことを明らかにすることで,セカンドオピニオンを陽のあたる場所に出し,弁護士全体の法的サービスのレベルを上げ,弁護士全体の信用を増すことができないかと考えているところです。



(追記 2011/10/26)

仙台の小松先生が,HPにかつての倫理規定と現行の職務基本規程との関係(10/24 弁護士業務についてのセカンドオピニオン-職務規程では?)やセカンドオピニオンの難しさ(10/25 弁護士業務についてのセカンドオピニオン-結構難しい?)について書かれています。ぜひ,ご覧いただきたいと思います。
セカンドオピニオンは微妙だし,対応が難しい場合が多いのですが,セカンドオピニオンで,総体としての弁護士の信用を維持し,個々の弁護士の懲戒といった最悪の結果を避けることもできるのではと思っています。

2011/10/19

15 セミナーを違った視点で


15 もっと身近な弁護士であるために2-セミナーを違った視点で

顧問先(あるいは顧問先になってもらいたい人)を対象にセミナーを開いている事務所は多いようです。
それが,その法律事務所のマーケティング上,顧問先の維持や関係の強化,顧問先の開拓に結びつくからでしょう。

でも,原総合法律事務所では,ちょっと違ったセミナーに力を入れています。
それは,原総合法律事務所のマーケティング戦略が,法的サービスにアクセスできていない市民,中小企業(特に,ここでは市民)をターゲットにしているからです(03)。
顧問を依頼できる企業よりも,顧問を依頼することのできない市民が圧倒的に多数なのですから,その層を弁護士・法律事務所にアクセスさせるセミナーがあってもいいと思いませんか。

例えば,原総合法律事務所では,上記のマーケティングの視点から,公民館での講座を無料で開催しています(最近の実績はこちら)。
公民館では,地域住民を対象に,いろんな講座を開講していますが,法律に関する講座はほとんどありません。それは,地域住民の法律問題に関する興味が乏しいからではなく,公民館の予算上の問題です(要するに,講師に支払うお金がないのです。)。そこで,従前,公民館では,お金のかからない裁判所や法務局の職員に,法律に関する講座の講師を依頼していた実態がありました。
私たちが,市内の公民館を回り,講師料はいらないから法律に関する講座を開かないか持ちかけたところ,ほとんどの公民館が,講座を企画してくれました。中には,講座に続いて,無料法律相談会を開くことを受け入れてくれた公民館もありました。
講座自体は,直ちに事件に結びつくというわけではありませんが,市民が「生の」弁護士にふれる貴重な機会であり,何かあれば原総合法律事務所の弁護士に相談してみようと思わせる,間接的な広報として意味があると考えています。
ただ,公民館講座を実施するには,事務局がマーケティング戦略を十分理解し,手分けして公民館に「営業」に回り,当日は講座の実施をサポートするような,法律事務所のマネジメントが不可欠です。

例えば,原総合法律事務所では,今年の8月,最近のマーケティング戦略の中心に置いている交通事故の専門相談窓口を設けた際,20~30人入れる会議室を設けましたが(「ミーティングルームかほう」と呼んでいます。),ここで市民向けのセミナーを開催することにしています。
まだ,設置したばかりなので,多重債務の無料の説明会を1回開いただけですが,現在,いろんな市民向けのセミナーの企画を進めているところです(実践型遺言作成連続セミナーとか)。

例えば,原総合法律事務所では,これも最近のマーケティング戦略の軸に位置付けている「顧問弁護士」ではない「かかりつけ弁護士」のサービス'Law Support 佳朋'を展開していますが(いずれまとめてお話しします。簡単にはこちら),その利用企業の社員に対して,「弁護士の取説」というセミナーを行っています。
私たちは,企業を介してその社員,更にはその家族や知人まで,原総合法律事務所の法的サービスを届けたいと考えていますが,そのためには,「生の」弁護士にふれてもらい,どんなときに弁護士を利用すればいいのか,その「取扱説明」を伝える必要があるのです。
ちなみに,この'Law Support 佳朋'の展開にあたっても,原総合法律事務所では,全スタッフが事務所の理念とマーケティング戦略を徹底して討議した上で,分担してつながりのある企業等にプレゼンを行っていますが,ここでもマネジメントされた組織の力が不可欠です。

2011/10/16

14 弁護士へのアクセスを障害するもの

14 もっと身近な弁護士であるために1-アクセスを障害するもの

繰り返し述べてきたことですが,原総合法律事務所では,そのマーケティング戦略を次の3つの要素にまとめています(03)。
(a) 質の高い法的サービスを作り,
(b) 質の高い法的サービスを提供できるという情報を広く法的ニーズをもっている人のところに届け,
(c) 法的ニーズのある人が,「いつでも,どこでも,だれでも」相談を受け,依頼できるようにする。
このうち,これまでは,主に(b)について,広報という観点から考えてみました。
今日からは,(c)について,弁護士・法律事務所へのアクセスという観点から考えてみたいと思います。

前提として,弁護士・法律事務所にアクセスできないために,その権利・利益が守られていない人がいるのかが問題です。そういう人がいないのなら,マーケティングは「顧客の奪い合い」にしかならず,法律事務所を勝者と敗者に分けるだけです。
しかし,弁護士・法律事務所にアクセスできていない層の存在を否定することなどできるはずもないでしょう。
以前,原総合法律事務所では,1日4件程度の新件相談(そのほとんどは紹介者のいないもの)があるといいましたが(04),それから1か月が過ぎ,更に新件相談は増加傾向にあります。この結果は,この間の原総合法律事務所のマーケティングにより,これまで弁護士・法律事務所へたどり着けていなかった層が,原総合法律事務所に相談に来ているからだと考えています。
マーケティングは,確かにドラッガーのいう「顧客の創造」を実現すると,今は確信しています。

ちなみに,比較的最近の日弁連の報告でも,いまだ法的紛争・課題を抱える市民のうち36%程度,企業のうち44%程度しか弁護士の法律相談を受けていないと推定しているようです(『市民の法的ニーズ調査報告書』日弁連弁護士業務総合推進センター2008年6月,『中小企業の弁護士ニーズ全国調査報告書』同2008年3月)。

それでは,このように,市民・中小企業が弁護士・法律事務所にアクセスできていない原因はどこにあるのでしょうか。
様々な指摘がなされていますが,私は,経験的には,次の問題が大きいように考えています。

a 心理的な障害
よく弁護士は「敷居が高い」とか,「ハードルが高い」といわれます。
漠然とした,弁護士に対するイメージから,弁護士は怖そうとか,こんな話しは聞いてもらえないだろうとか思って,知人や行政の窓口,更には他士業に相談する人は多いのです。
なお,実際に弁護士に相談してみて,やっぱり怖そうな人で,話しも聞いてもらえなかったという不満を持たれる人がいることも事実です。

b 費用面の障害
どれくらい費用がかかるか分からない,あるいは,高額の費用がかかるのではないかと思って,弁護士のところに来ない人たちがいます。また,そもそも費用を支払うようなお金がないという人もいます。
なお,実際に弁護士を利用して,費用が高いと思う人もいるようです。

c 時間的な障害
ようやく時間が取れるのに,予約が先にしか取れないというのでは,相談に行こうという気持ちにはなりません。
即日相談に対応できる体制を作り,「今日でも相談をお受けできますが,ご希望の日時はありますか。」と答えるようでなければならないことは,既に強調したところです(04)。
なお,夜間相談や土曜相談などのニーズは,経験的にそんなに高くないと感じています。むしろ,せっぱ詰まって相談したいと思う人は,仕事を休んででも相談に行こうと思うので,平日の昼間,ただし,自分が行くことのできる時間に相談の時間を取って欲しいと思うようです。

d 場所的な障害
近くで相談を受けることができれば,それにこしたことはないでしょう。しかし,弁護士ゼロ・ワン地域がほぼ解消し,交通網の発達した現状では,30分から1時間程度の時間をかけて相談に来ることは,それほど障害ではなくなりつつあります。ただ,交通の要所である駅に法律事務所があれば,それは意味があるのかと考えています。
もっとも,高齢や障がいのために来所されるのが負担であったり,入院・入所されていて来所が困難な方のためには,別途,出張相談や,電話相談,テレビ電話相談などが必要になります。
また,専門的な分野については,近くにその分野を扱う法律事務所がないことは,場所的なアクセス障害というべきです。この点で,ネットの世界は,この障害を緩和する手段となる可能性があり,原総合法律事務所も,医療過誤や交通事故については,全国を視野に入れていることをお話ししました(11)。

このうち,bないしdの障害については,様々な工夫をすることにより,簡単でないとはいえ,対応できていくだろうと思います。
最後に残る障害は,aです。この解決が,実は一番難しいし,弁護士全体の意識改革が必要な最大の課題と考えています。

では,次回以降,原総合法律事務所がアクセス改善のために考え,実行してきた様々な取組みをお話しすることにしましょう。

2011/10/13

マーケティングを進める前提としてのマネジメント


<コラム編2>マーケティングを進める前提としてのマネジメント

このブログでは,マーケティングの考え方や手法を取り上げていますが,マーケティングを実際に進めるのは事務所の全てのスタッフです。所長だけでないのはもちろん,弁護士だけでもなく,事務局,それもパートも含めた全てのスタッフです。
所長弁護士だけがマーケティングを考え,マーケティングの視点で事務所を運営しようとしても,思うような成果は上げられないはずです。

事務所の全スタッフが,事務所理念を共有し,その理念に照らしてマーケティング戦略を考え,意見交換し,決まった方針を協同して実行する組織を造り上げることが,有効なマーケティングの前提です。
それが,マネジメントの視点です。

企業等にとっては当然のこのことが,法律事務所においては,ほとんど意識されていないように思われます。
ようやく,マーケティングについては,その意義が理解されつつあるようですが,マネジメントについては,更に認識が遅れているのが現状だと思います。
それは,従前の所長弁護士1人とせいぜい事務局1~2人という規模の事務所では,マネジメントを意識するまでもなかったからでしょう。

しかし,今後,弁護士が更に増え,マーケティングの手法が広まるにつれ,事務所の規模を拡大する方向は,ますます強まるでしょう。「ユーザー目線」,「サービス業の視点」から,即日相談体制は不可欠であり,そのために弁護士複数化が必要なことは,このブログの最初に強調したところです(04,05)。

そのために,弁護士の数を増やし,事務局の数を増やしていったときに,その全てのスタッフが同じ方向を向いて,協同して業務していくことの難しさが身にしみて分かると思います。法律事務所は,一般の企業にも増して,個々の弁護士に独立志向が強く(もっといえば,わがまま),また弁護士と事務局という異質な者の関係もあり,組織としてのまとまりを作るのが難しいと実感しています。
原総合法律事務所のマネジメントの方法論も,そのような経験の中で作り上げてきたものです。

しかし,このブログでは,マネジメントそのものについては取り上げません。
それは,このブログの冒頭(01)でふれたように,原総合法律事務所では,現在,弁護士でないマネージャーが組織を統轄すべきとの考えに基づき,マネジメントはマネージャーが担当しているからです。
マネージャーのブログ「所長弁護士・中小企業経営者必見! 法律事務所におけるマネジメントのススメ」の冒頭で指摘されているように,所長弁護士は,マーケティングを統括するのに加え,業務はもちろん,会務も行わなければなりません。これらは,所長弁護士でなければできない役割分担ですが,他方,マネジメントは,必ずしも弁護士が担当しなければならないものではありません。むしろ,弁護士は,組織の観点が乏しく,マネジメントは苦手な者が多いと考えています(少なくとも私はそうです。)。
そうであれば,マネジメントは,弁護士でない者が行う方が,組織にとっての負担(端的にいえば経費)が少ないといえます。
かつ,マネジメントの能力に秀でている者は,女性により多いと考えています。人の本質を見抜き,人を気持ちよく動かす配慮ができ,人のモチベーションを高めることは,女性が得意とするところです。

では,原総合法律事務所のマネジメントはどのように行われているのか,ぜひ,マネージャーのブログ「所長弁護士・中小企業経営者必見! 法律事務所におけるマネジメントのススメ」を覗いてみてください。
原総合法律事務所のマネジメントの具体的な方法が,詳しく紹介されています。
また,そのようにして造り上げられた原総合法律事務所のスタッフの生き生きとした様子が伝わるのではないかと思います(ボツネタも含めて。)。
面白げな話題に読者の関心が偏っているきらいがなきにしもあらずですが,それらも含めて,マネジメントだということで。。。

そのようにマネジメントされた原総合法律事務所の弁護士,事務局が,事務所理念のもと,同じ方向を向いて進んでいることは,この所長のブログとマネージャーのブログに加え,佐世保事務所のブログ「佐世保の弁護士・スタッフが贈る~HLOブログマガジン~」と長崎事務所事務局のブログ「弁護士を支え思考する事務局~法律事務所の改善提案!~」も見ていただければ分かると思います。佐世保事務所のブログは佐世保事務所の弁護士・事務局が交代で,長崎事務所事務局のブログは長崎事務所事務局が交代で書いているのですが,一人が書いていると思いませんでしたか。そう見えたとすれば,それは,事務所理念という「軸」が,全スタッフに浸透している,マネジメントの到達点なのです。

2011/10/12

原総合法律事務所の理念と年間スローガン


<コラム編1>事務所の理念と年間スローガン

前々回で広報のシリーズはいったん終わることにし,次は,テーマを変えて,アクセス改善のための取組みを考えていこうと思います(書いている方も,同じテーマで書き続けるのにやや飽き気味で,違うことを書きたくなったもので)。

その前に,今回は,コラム的な単発のテーマです。
事務所の理念と年間スローガンについて考えてみたいと思います。

このブログの冒頭(02)で,マーケティング,マネジメントの基本は,明確な事務所理念を断固として貫き通すことだと宣言しました。そこから,事務所の全てのマーケティングの方針が導き出されていなければならないし,それが,事務所が提供する全てのサービスや企画,更には組織を検証する物差しになっていなけらばならないと言いました。
したがって,事務所の理念は,深化することはあっても,本来,変わるものではあり得ません。

とはいっても,事務所は,そのスタッフも変わっていけば,事務所の成熟度も変わっていきますし,事務所を取り巻く情勢も変わっていきます。
また,そもそも事務所の理念は,事務所の理想的な姿であって,永遠の目標ともいうべきものです。
そこで,事務所理念の下で,事務所のその時点における具体的な目標を明らかにし,スタッフ間で共有することが,事務所の発展のためには有効です。
原総合法律事務所では,年頭に,その年の年間スローガンを掲げ,毎月の事務所会議で確認し,問題意識の共有化を図るようにしています。

その年間スローガンを掲げるようになったのは,マーケティング戦略を打ち出した2008年からでした。
2008年は,まさにその原総合法律事務所の「マーケティング戦略」を年間スローガンに掲げ,マーケティングの意識付けとマーケティング戦略の枠組みの確立を進めた年でした。
その結果,先に紹介したように,2008年8月,原総合法律事務所のマーケティング戦略を,マーケティングの3要素にあてはめ,
(a) 質の高い法的サービスを作り,
(b) 質の高い法的サービスを提供できるという情報を広く法的ニーズをもっている人のところに届け,
(c) 法的ニーズのある人が,「いつでも,どこでも,だれでも」相談を受け,依頼できるようにする。
と定式化したのです(03)。
そして,この年,法人化をして,翌2009年1月の佐世保事務所開設の準備を進め,HP,リーフレット,広報誌・新聞広告,DVD制作等各種の広報を開始し,既に即日相談体制を実現していたのです。

この到達点をふまえた2009年の年間スローガンは,「トップランナーであり続けること」でした。
私たちは,既に2008年の実践の中で,地方の小規模事務所としては,「トップランナー」になったという自負がありました。
しかし,事務所を取り巻く情勢は変化していきますし,理想はまだ先にあるわけですし,何よりも原総合法律事務所の実践を見て,他事務所も同様の取組みを始めるだろうと思っていました(実際には,そうでもなかったのですが。)。そうであれば,原総合法律事務所は,更に事務所理念を突き詰め,新しい取組みを続け,「トップランナーであり続けること」を目指したいと考えたのです。
そこで,この年,佐世保事務所を開設し,県北地域のニーズにも答える体制をとり,ラジオCM,ラジオ番組,ラジオ局とタイアップしたイベント,長崎駅前広場の大型ビジョンでの広告など目立つ広報に力を入れ,また,各種無料相談枠を拡大しました(当時は,多重債務,相続・遺言,交通事故,離婚の4類型)。

このようないわば拡大路線に修正を加えたのが,2010年の年間スローガン「フェアなコスト意識」です。
不況が続き,弁護士が急増する中で,原総合法律事務所が理念として掲げる「いつでも,どこでも,だれにでも 上質な法的サービスを。」提供しようとすると,多数の少額の事件を受任することになるのは必然でした。
それでも「上質な法的サービス」を提供するためには,スタッフのコスト意識が不可欠です。
ただし,コスト意識を徹底すれば,利益の上がらない事件は受けないということにもなりかねません。しかし,原総合法律事務所は,「基本的人権の擁護と社会正義の実現」を理念の柱としているので,その観点からは,非効率な事件も受けるべき責務があると考えました。単なる「コスト意識」ではなく,「フェアなコスト意識」とした理由です。
加えて,「フェア」としたのは,原総合法律事務所が提供する法的サービスは,正当に評価されなければならないので,「価格破壊」や「低価格競争」とは一線を画し,適正な弁護士報酬を求めていくという意味も含んでいます。
そこで,この年は,目立つ広告を打つ時期は終わったと考え,広報の絞り込みを行い,組織の整備と業務の効率化を進め,医療過誤,交通事故等の専門分野の打出しに取り組みました。ちなみに,この組織の整備に関してですが,原総合法律事務所では,マネジメントは弁護士が行うべきではないという考えから,マネージャーが担当しています(マネージャーのブログ参照)。

そして,今年,2011年を迎え,私(所長原章夫)が2期2年の会長の任期を終え,会務が軽減されたので,改めて新しい取組みを強化しようと,「Innovation(変革)」を年間スローガンに掲げました。
実際,会長を退任した4月以降,いくつも新しい取組みを行ってきましたし,現在取り組んでいるプロジェクトもあります。これらについては,順次,紹介していきたいと思います。
このブログも,この新しいマーケティング戦略に位置付けられるものなのです。

2011/10/08

日弁連業革シンポのパネラーします


<番外編2>日弁連業務改革シンポのパネラーします

このブログが日弁連の業務改革シンポのメンバーの目にとまり,急遽,パネラーとして登壇することになりました(予定)。
11月11日(金)に横浜で開催される「第17回弁護士業務改革シンポジウム」の第1分科会「小規模法律事務所におけるマーケティング戦略~さらなる依頼者志向に向けて~」がそれです。この日の午後のパネルディスカッションに登壇予定です。

原総合法律事務所の事務所理念を基礎とした様々な新しい視点の提示や新しいサービスの展開が興味をひいたのだと思います。

当日は,ブログで書いていることはもちろん,ブログには書ききれなかったこと,また,これからブログに書くことも含めて,時間が許す限りお話ししたいと思います。ちなみに,原総合法律事務所のマーケティング戦略は日々深化し(軸はぶれません。),サービスは日々新しくなっていくので,極端な場合は1週間でサービスの内容が変わり,1か月もすると昔の話しになっていることがあります。最新の原総合法律事務所のマーケティング戦略は,そのときにしか聞けません。

また,その後の懇親会にも参加しますので,お声をかけていただければ,もっと立ち入った話しができるかもしれません。

ぜひ,多くの方に参加していただきたいと思います。

そして,原総合法律事務所のマーケティングについて,どのように受けとめられたか,お聞かせいただければ嬉しいです。そのご意見,ご感想を,次の原総合法律事務所のマーケティング戦略につなぎたいと思っています。ちなみに(ちなみにが多いですが),原総合法律事務所のモットーに「謙虚」というのもあります。あらゆる方のあらゆる意見を,同じ目の高さで(上から目線でなく)素直に受けとめ,貪欲に学び続ける原総合法律事務所でありたいと思っています。

さて,原総合法律事務所のマーケティングやマネジメントについて,全国の弁護士の皆さんはどのように感じられるのでしょうか。一方的な発信ではなく(すみません,ブログにはコメントできない設定にしています。),皆さんのリアクションを直接体感できる貴重な機会と期待しています。

シンポジウムの様子は,改めてご報告します。



(追記 2011/10/10)
このパネラーには,仙台の小松先生に推していただいたのですが,10月10日の小松先生のHPで,小松先生と交代だったことを知りました。そうとは知らず,小松先生には失礼しました。
改めて,小松先生のHPで次のとおりご紹介いただいたことにお礼申し上げます。
マーケッテイングを真剣に考える事務所増加中(09/19)
マーケッテイングを真剣に考える事務所増加中2(09/20)

2011/10/07

13 人を介しての広報

13 広報を考える8-人を介しての広報

広報媒体というのとは少し違うので,広報のタイプ(06)にはあげていませんが,有効な広報になるのが,「人」を介しての広報です。
従来の弁護士は,顧問や紹介などを通じて相談や依頼を受けるのが一般的だったと思いますが,それはまさに「人」を介しての広報でした(もっとも,マーケティングなどという意識はなかったのでしょう。)。

原総合法律事務所にも,顧問先はあるのですが,顧問には依拠していないので(04),違った形で,より徹底して「人」を介しての広報を行っています。

まず,早くから取り組んでいたのが,「キーマンを介しての紹介」です(02の(b))。原総合法律事務所では,かつての依頼者などで,周囲に人脈を持っており,たびたび相談者・依頼者を紹介してくれたり,紹介してくれることを期待できる人を「キーマン」と呼んでいました。事務所の新しい展開があったり,新しいサービスを始めたときには案内を送り,また事務所グッズ(カレンダー,うちわ,ハンドタオル,ボールペン等)を作っては送ったりしていました。
こういった人は,周囲に困った人がいれば,原総合法律事務所を紹介してくれる有力なサポーターです。

次に考えたのが,全ての依頼者に「キーマン」になってもらうことでした。事件終了時には,原則として,預り金の精算に事務所に来ていただき,担当弁護士も応対して,事務所グッズ,サンクスグッズ,無料相談券等を渡すようにしました。
依頼者は,既に弁護士,特に原総合法律事務所の法的サービスを受けています。そこで満足,納得を得ていれば,リピーターになってもらえますし,周囲にも原総合法律事務所を紹介してもらえます。
事件が終わったらおしまいではなく,将来につなぐのがマーケティングというものです。

更に考えを進めれば,受任に至らない相談だけで終わる相談者も,既に原総合法律事務所の法的サービスを受けています。そうであれば,この相談だけで終わった相談者にも「キーマン」になってもらうべく,リーフレットや事務所グッズ,無料相談券等を渡すようにしました。
また何かあれば,気軽に原総合法律事務所に来てもらえるように,更に周囲に困った人がいれば原総合法律事務所を紹介してもらえるように,相談だけで終わる人も大切にしなければなりません。

もちろん,前提として,原総合法律事務所の法的サービスを受けて,満足,納得を得ていなければ,リピーターにはなってもらえませんし,周囲にも原総合法律事務所を紹介してもらえるわけがありません。
そこで,原総合法律事務所では,「サービス業の視点」,「ユーザー目線」をキーワードに(05),「上質な法的サービス」を提供することを事務所の理念とし,結果にかかわらず(敗訴したとしても),満足,納得を得てもらうよう,弁護士だけでなく,事務局も一体となって,圧倒的な努力を続けてきたのです。

いい仕事をすれば,仕事は増えるという当たり前のことなのですが,そのことを意識したシステム作りが必要なのです。

そういう観点から,実は,最近,原総合法律事務所では,新しい「人」を介しての広報として,かかりつけ弁護士"LAW SUPPORT 佳朋"のサービスを始めています。これも,おそらくは例のないサービスと思いますが,そのことは,顧問との関係も含めて,後日まとめてお話しします。

2011/10/04

12 記事になるということ

12 広報を考える7-記事になるということ

事務所の取組みが,広告ではなく,記事として新聞に掲載されたり,ラジオ・テレビで報道されれば,その効果は広告とは比較にならない大きさがあります。
社会的に意味のある取組みとして認知され,広告とは異なったレベルで信用されることとなるからです。
それは,一般の読者,視聴者はもちろん,公的機関においても同様です。自治体の相談窓口などが,特定の法律事務所を紹介することは通常考えられませんが,記事になったりすると,相談者にその記事を示したりすることはあるように思います。

原総合法律事務所の例は,06と番外編で紹介しました。今年の8月から交通事故専門の相談窓口をスタートし,3回まで相談を無料としましたが,この意義を含めサービスの紹介を各メディアに投げ込んだところ,地元ではもっともシェアの大きい長崎新聞と全国紙では毎日新聞が記事として取り上げてくれました(毎日新聞の記事はこちら)。その効果もあって,交通事故の相談は,以前は月5件程度だったのですが,8月は20件,9月は11件に増え,10月はまだ1日だけですが3件の相談がありました。

では,どうすれば,メディアはニュースとして取り上げてくれるのでしょうか。
もちろん,前提として,その取組みがニュース性のあるものでなければなりません。
この点で,民間の一法律事務所の活動は,基本は商業ベースの活動とみなされ,直ちにはニュース性は認められないものです。

しかし,原総合法律事務所の理念は,公益的,公共的意味を持っています。「法的サービスを独占し,そのサービスの提供にあたって,『基本的人権の擁護と社会正義の実現』を求められる弁護士として,法的サービスにアクセスできていない市民,中小企業に対し,上質な法的サービスを提供できる事務所であること」(02)を理念とする原総合法律事務所の取組みは,その軸がぶれない限り,単なる商業ベースの活動ではないはずです。
そして,まさにその理念にしたがい,原総合法律事務所では,交通事故専門の相談窓口を置くことにしました。すなわち,交通事故の加害者は,多くの場合,いわゆる任意保険に加入しており,保険会社担当者や弁護士の示談代行サービスを受けることができる一方で,被害者は,その法的知識や経験において,これら加害者側と圧倒的な格差があり,その基本的人権の擁護と社会正義の実現のためには,弁護士の支援が必要な場合が多いといえます。そこで,そのような交通事故の被害者が利用しやすい相談窓口を作ることが事務所の理念に適うことであると考え,交通事故専門の相談窓口を設け,同一事故について3回まで無料で相談に応じることとしたのです。かつ,医療機関や自治体とのネットワークも展望しました。
このように,事務所の取組みの公益性,公共性を,まず事務所内で明確に位置付けることが,事務所の取組みにニュース性を与えるのです。

しかし,だからといって,勝手にメディアがニュース性があると考え,記事にしたり,報道する訳ではありません。
まずは,県政,市政,司法,経済等の記者クラブに,取組みの公益的,公共的性格も含めて分かりやすく説明した報道のお願いを投げ込みます。場合によっては,記者会見(記者レク)をすることも考えていいでしょう(ただ,記者が集まらないと消耗するので,安易に行うのはどうかと思います。)。
興味を持った記者から,取材の申込みがあれば,記事になる可能性は大きくなります。取材には,丁寧に応じ,十分な説明をしなければなりません。その際,その取組みの公益的,公共的性格を説明するのは当然ですが,県内で初めてとか,全国でも例を聞かないとかいうのは,ニュース性を高めます。また,その取組みの利用者(相談者,依頼者)の声(インタビュー)を出せれば,それもニュース性を高めます。
要するに,ニュースになるような情報の提供の仕方に習熟する必要があるのです。

また,前提として,社会的に注目される事件などを多く扱っていて,記者と面識があったりすると,記事になりやすいということもあるように思います。社会的に意義のある事件に関与し,常日頃,面倒くさがらずに記者の取材に応じておくことも,有効です。

2011/10/02

11 HPの次の段階

11 広報を考える6-HPの次の段階

09,10と2回にわたって法律事務所のHPについて考えてみました。
当たり前のことをまとめただけですが,その当たり前のことを実行するのは簡単ではありません。原総合法律事務所のHPも,まだ日々改善を加えている途中です。

ところで,もし,原総合法律事務所のHPを精査した方がおられたなら,このブログで言っていることと矛盾するコーナーがあることに気付かれたかもしれません。
今回は,原総合法律事務所のHPが,次の段階も考え,進化していることを話したいと思います。

そのコーナーは,【弁護士が語る ちょっと難しい?法律の話】です。

前回,HPは分かりやすくなければならないことを,繰り返し説きました。
ところが,このコーナー,内容を見てもらえれば分かるように,訴状,答弁書,準備書面等の抜粋です。分かりやすくする手直しなど全く行っていません。ただ,当事者の特定ができないような配慮をしただけです。タイトルからして,「ちょっと難しい?」です。

それは,原総合法律事務所の新しいマーケティング戦略に関わっています。
原総合法律事務所のマーケティング戦略が,「当事務所の特徴である多重債務を含む消費者問題,医療過誤,行政訴訟,高齢者問題等に,弁護士による十分な法的サービスが提供されているか」を問題としていることは,このブログの最初に説明しました(02)。また,「上質な法的サービス」というキーワードにも何度もふれてきました。
そして,実際に,原総合法律事務所では,20年近く前の事務所開設時から,医療過誤に患者側で積極的に取組み,最近では,常時10~20件の医療過誤を取り扱っています。その蓄積と成果には,相当の自負もあり,「上質な法的サービス」といっても誤りではないと思っています。
また,医療が絡む交通事故についても,被害者側で,医療に関する蓄積をふまえて取り組んでおり,この分野でも「上質な法的サービス」を提供できる前提があります。

そこで,医療過誤,交通事故についていえば,実は,原総合法律事務所が「上質な法的サービス」を提供すべきなのは,地元長崎だけではなく,全国なのではないかと考えるようになってきていました。専門的分野に関するニーズに対応できる法律事務所は,各地域に十分あるとはいえないと思うのです。
そうして,今年の8月末,原総合法律事務所では,マーケティング戦略の新しい展開として,医療過誤,交通事故の分野では,全国のトップの法律事務所となることを具体的な目標として掲げるべき時期が来ていることを確認しました(トップレベルではなくトップという意味は,後日また。)。

このような全国を対象とすることを可能にするのがネットの世界であり,HPです。
専門的分野で「上質な法的サービス」を求める層は,地元に限定せず,全国の法律事務所から,そのニーズに答えてくれそうなところをネット上で探します。この層は,既に自らが抱える問題について,かなり詳しい専門的な情報も集めており,今さら分かりやすい説明など求めてはいません。
この層をターゲットとして,9月のHPリニューアル時に新しく作ったのが,【弁護士が語る ちょっと難しい?法律の話】のコーナーなのです。したがって,準備書面等を分かりやすく書き直すことはせず,あえてそのまま掲載しています。
まだ新設したばかりのコーナーで,情報量も少ないですし,いずれは,去る7月に開設した交通事故の専門のHPと近く開設予定の医療過誤の専門のHPに移す予定ですが,その狙いは分かってもらえたでしょうか。

ちなみに,07 広報を考える2-統一されたイメージで,広報のデザインに関わって,原総合法律事務所では,以前は,地元密着を強調しようと,長崎らしい風景なども使っていたけれど,今は,あえて長崎らしさは払拭したことを話し,その狙いは後日の説明に譲っていました。その狙いの一つが,この医療過誤,交通事故などについて,長崎にとどまらず,全国への展開を考えていることだったのです(他にも理由があるのですが,それは後日ということで。)。

2011/10/01

10 HPの差別化

10 広報を考える5-HPの差別化

前回(09),HPが有効な広報媒体として機能するためには,次の2つの条件が必要だといいました。
1) まず,多くの人にアクセスしてもらうこと
2) 次に,他の事務所と比べて,ここに相談に行こうと考えてもらうこと
前回の1)に続き,今回は,2)について考えます。

私たちがここで対象と考えているのは,法的なトラブルを抱え,弁護士に相談しようか,あるいは,どの法律事務所に行こうかと考えて,HPを見る人たちです。
こういった人たちは,他の法律事務所のHPも見て,あるいは他の士業の事務所のHPも見て,どの事務所に行こうか決めます。他の法律事務所や他の士業の事務所のHPとの差別化が必要な理由です。

では,HPの差別化という観点から,どういうHPを作るべきでしょうか。
既に多くの指摘があるところですが,原総合法律事務所のマーケティング戦略では,「HPの充実(圧倒的な情報量と分かりやすさ)」(03)とまとめています。
HPを比較して見る人が,分かりやすく,詳しい情報があるHPを選ぶのは当然です。

そこで,必要な情報ですが,事務所概要やアクセス情報など形式的なものを除き,配慮が必要と思うのは,次のような点です。

・事務所の理念が全体を通じて伝わってくること
もちろん,事務所の理念は載せていると思います【原総合法律事務所のHPから 理念はこちら】。
しかし,その理念を掲載したページだけでなく,HPの各ページの全体から伝わってくる事務所の印象とでもいうようなものがあります。説明するのは難しいのですが,視覚的な印象(弁護士の写真,事務所内の写真も含めて)や内容から,何となく伝わってくる事務所の理念が,それをいいと思う人(共感する人)を呼び寄せると思っています。

・費用が分かりやすく,詳しく説明されていること
弁護士に相談しようか迷う人の中には,いったいいくら費用がかかるのか分からないという人が多いようです。【原総合法律事務所のHPから 分かりやすくしたのはこちら 詳しいのはこちら

・手続の流れが分かりやすく紹介されていること
事件の類型毎に,どのように手続が進んでいくのか,チャートなども使い説明してあるといいと思います。【原総合法律事務所のHPから 例えば,医療過誤の進め方はこちら

・よくある質問が,数多く,分かりやすく説明してあること
HPを見る人は,自分が困っている問題について,いろんなHPの情報を比べているわけですから,多くの問題を取り上げているほど,ヒットする確率が高くなります。
かつ,その問題について,他のHPより分かりやすく,詳しく説明してあれば,そちらを選ぶのは当然でしょう。この点で,法律事務所のHPの説明には,普通の市民には難しすぎる説明があったりするので注意が必要です。【原総合法律事務所の交通事故の専門HPから よくある質問はこちら ,原総合法律事務所のHPから 弁護士が語る 分かる!法律の話はこちら

こういった情報を圧倒的な量と分かりやすさで載せることが,HPが有効に機能する条件となります。

しかし,HPを立ち上げた当初から「圧倒的な情報量」を載せることは無理で,日々,情報を増やしていくことが必要です。そのために,HPは,頻繁にかつ容易に更新できなければなりません。
ところが,HPの更新には,HTMLファイル等を扱う技術が必要で,これを事務所内で行うのは簡単ではありません。かといって,HPの更新を業者に依頼すると,機動的な更新が難しくなります。
この専門的な知識が必要なHPの更新を簡単にするのがCMS(Content Management System)です。原総合法律事務所でも,CMSを導入し,事務所内でHPの更新ができるようになって,HPの更新を頻繁に行うことができるようになりました(CMS導入自体は,業者に依頼する方が合理的です。)。


最後に,前提として,このようなHPの差別化により,原総合法律事務所を選んでもらうことが,市民,中小企業にとって,はたしていいことなのかという日々の検証が必要なことを強調しておきたいと思います。原総合法律事務所が,「法的サービスにアクセスできていない市民,中小企業に対し,上質な法的サービスを提供する」という理念を実践しているという「自信」とそれを裏打ちする「努力」がなければ,HPの差別化は,市民,中小企業にとって,無益です。