14 もっと身近な弁護士であるために1-アクセスを障害するもの
繰り返し述べてきたことですが,原総合法律事務所では,そのマーケティング戦略を次の3つの要素にまとめています(03)。
(a) 質の高い法的サービスを作り,
(b) 質の高い法的サービスを提供できるという情報を広く法的ニーズをもっている人のところに届け,
(c) 法的ニーズのある人が,「いつでも,どこでも,だれでも」相談を受け,依頼できるようにする。
このうち,これまでは,主に(b)について,広報という観点から考えてみました。
今日からは,(c)について,弁護士・法律事務所へのアクセスという観点から考えてみたいと思います。
前提として,弁護士・法律事務所にアクセスできないために,その権利・利益が守られていない人がいるのかが問題です。そういう人がいないのなら,マーケティングは「顧客の奪い合い」にしかならず,法律事務所を勝者と敗者に分けるだけです。
しかし,弁護士・法律事務所にアクセスできていない層の存在を否定することなどできるはずもないでしょう。
以前,原総合法律事務所では,1日4件程度の新件相談(そのほとんどは紹介者のいないもの)があるといいましたが(04),それから1か月が過ぎ,更に新件相談は増加傾向にあります。この結果は,この間の原総合法律事務所のマーケティングにより,これまで弁護士・法律事務所へたどり着けていなかった層が,原総合法律事務所に相談に来ているからだと考えています。
マーケティングは,確かにドラッガーのいう「顧客の創造」を実現すると,今は確信しています。
ちなみに,比較的最近の日弁連の報告でも,いまだ法的紛争・課題を抱える市民のうち36%程度,企業のうち44%程度しか弁護士の法律相談を受けていないと推定しているようです(『市民の法的ニーズ調査報告書』日弁連弁護士業務総合推進センター2008年6月,『中小企業の弁護士ニーズ全国調査報告書』同2008年3月)。
それでは,このように,市民・中小企業が弁護士・法律事務所にアクセスできていない原因はどこにあるのでしょうか。
様々な指摘がなされていますが,私は,経験的には,次の問題が大きいように考えています。
a 心理的な障害
よく弁護士は「敷居が高い」とか,「ハードルが高い」といわれます。
漠然とした,弁護士に対するイメージから,弁護士は怖そうとか,こんな話しは聞いてもらえないだろうとか思って,知人や行政の窓口,更には他士業に相談する人は多いのです。
なお,実際に弁護士に相談してみて,やっぱり怖そうな人で,話しも聞いてもらえなかったという不満を持たれる人がいることも事実です。
b 費用面の障害
どれくらい費用がかかるか分からない,あるいは,高額の費用がかかるのではないかと思って,弁護士のところに来ない人たちがいます。また,そもそも費用を支払うようなお金がないという人もいます。
なお,実際に弁護士を利用して,費用が高いと思う人もいるようです。
c 時間的な障害
ようやく時間が取れるのに,予約が先にしか取れないというのでは,相談に行こうという気持ちにはなりません。
即日相談に対応できる体制を作り,「今日でも相談をお受けできますが,ご希望の日時はありますか。」と答えるようでなければならないことは,既に強調したところです(04)。
なお,夜間相談や土曜相談などのニーズは,経験的にそんなに高くないと感じています。むしろ,せっぱ詰まって相談したいと思う人は,仕事を休んででも相談に行こうと思うので,平日の昼間,ただし,自分が行くことのできる時間に相談の時間を取って欲しいと思うようです。
d 場所的な障害
近くで相談を受けることができれば,それにこしたことはないでしょう。しかし,弁護士ゼロ・ワン地域がほぼ解消し,交通網の発達した現状では,30分から1時間程度の時間をかけて相談に来ることは,それほど障害ではなくなりつつあります。ただ,交通の要所である駅に法律事務所があれば,それは意味があるのかと考えています。
もっとも,高齢や障がいのために来所されるのが負担であったり,入院・入所されていて来所が困難な方のためには,別途,出張相談や,電話相談,テレビ電話相談などが必要になります。
また,専門的な分野については,近くにその分野を扱う法律事務所がないことは,場所的なアクセス障害というべきです。この点で,ネットの世界は,この障害を緩和する手段となる可能性があり,原総合法律事務所も,医療過誤や交通事故については,全国を視野に入れていることをお話ししました(11)。
このうち,bないしdの障害については,様々な工夫をすることにより,簡単でないとはいえ,対応できていくだろうと思います。
最後に残る障害は,aです。この解決が,実は一番難しいし,弁護士全体の意識改革が必要な最大の課題と考えています。
では,次回以降,原総合法律事務所がアクセス改善のために考え,実行してきた様々な取組みをお話しすることにしましょう。